第3話 クレマチス種子のZIP播法

クレマチスの育種を始めた頃の事です。開花まであまりにも時間が掛かりすぎる、少しでも短縮できないかと考えていた矢先、関西クレマチス協会の菊田会長の講習会(2004年5月)で「クレマチスの種子の皮をむき、水の入ったZIP袋に入れておくことにより早く生育する」との情報を得ました。それ以来、ZIP播法に強い興味を持つようになりました。

まず、ZIP播法が地播法と比較して優れていると思う点を次に述べます。

  1. ZIP播法では、透明なポリエチレン袋に水を入れ、その中に種子を入れるので、発根、および発芽等の生育状況を詳細に観察できる
  2. ZIP播法の作業は10月~翌年3月で、通常の交配作業の無い、いわゆるオフシーズンにあたる
  3. たとえ種子の量が増加しても、ほとんど場所を取らない
  4. ZIP播法では、該当の種子からの発根、発芽を確認することができる(地播法で得られる苗は、厳密に言えば『直接的に種子が見えているわけでもなく、ただ播いた場所から発芽して来ただけ』とも言える、曖昧さがあると思っています)

その1 ZIP播種子の外皮除去

第1話(その5)で採取した種子をZIP播きする前に、次のような準備を行います。

 

果球状態にあるものをバラし、種子の毛をカット ⇒ 外皮を除去

 

外皮を除去しやすくするために、種子を1~2日間水に浸しておきます。その後、種子の毛をカットした断面に割れ目が見られます(毛の付いていた端は、果球側の端に較べて陽にやけているため、黒っぽいことを判断材料にすると早く見つかる)。この割れ目に爪を立てると、外皮が簡単に2つに割れて、中から種子が出て来ます

内部に全く種が無いもの、異常に小粒のもの、柔らかさが残るもの、虫害の形跡があるもの等はZIP播種子から外します。

 

その2 ZIP播法

外皮を除去した種子を、ZIP付ポリエチレン袋(以下ZIP袋と呼ぶ)に入れ、約5~10ccの水を入れます(袋内の水深 = 約2cm)。1袋あたりの種子は最大5個として、観察しやすくしておきます。

ZIPシール部をシールし、片隅に長さ2~3cmに切ったパイプ状のものを挿入し、開口部を作り空気の出入りを容易にします。

ZIP袋の上半分部あたりにマジックペン等で、種子の種類、種子の数、ZIP播年月日などのメモ書きをしておくと便利です。

 

その3 ZIP袋及び種子の観察

ZIP袋が10枚以下の場合は、小さな容器に入れて管理できますが、ZIP袋が多数の場合にはスリットを入れた板で架台を作ると、所要のZIP袋を即座に出し入れでき、非常に便利です。

一般的に、ZIP播は種子がトリマキということから8~11月に行ないます。10月以前にZIP播きしたものの一部は当該年度に発根・発芽しますが、11月以降のものは、次年度となります。ZIP播き以降は、7~10日に1回ほどの頻度でZIP袋内部及び種子を観察します。観察のポイントは以下の通りです。

(1) ZIP袋内の種子は経時的に、

 ―“根が出て”       ・・・発根(参照1)(参照2

 ―“根の一部に割目が生じ” ・・・胴割(参照1)(参照2) 

 ―“胴割部から芽が出る“  ・・・発芽(参照1)(参照2

これらは重要履歴項目であり、極力記録しましよう。2番目の“胴割”は正式名称ではなく、我流の呼称法です。

 

(2) ZIP袋から水漏れが無いことを確認します。水無しで長時間放置すると、内部の種が枯渇してしまうことになります。

 

(3) 種子の腐敗を見つけた場合は即座に除去し、ZIP袋内の水を入れ替え、腐敗の広がりを防止しましょう。

 

(4) 数ヶ月経過すると、ZIP袋内に藻などが繁殖し、水が汚れ、内部の観察が困難となることがあります。このような場合は水を入れ替えます。

 

その4 発芽品のポット上げ

発根後1~2ヶ月経過すると発芽が始まり、発芽が1cm以上にのびた時点でポット上げします。ここでは、2号サイズのポリポットを4分割した1区画部に種播用土を使います。発芽が無くてもポット上げは可能ですが、発芽が進んでいる方がポットアップの作業が容易です。種子部、発根部は土中に確実に埋め、発芽部は空中に出して植え付けます。植え付け後、マグアンプ等の肥料を数粒施し、用土で完全に被せるようにすると良いでしょう(肥料の露出が白絹病を発生しやすくしているのではないかと考えています)。

 

その5 4分割ポット幼苗の管理

4分割ポットは、3月下旬まで底面給水を継続し、明るい室内で管理します。幼苗は伸長が早いので、1mmほどの細いタケヒゴを支柱として誘引し、ツルが5cm以上になったら先端をカットします。

また、経時的に白絹病が増えて来ることがありますので、ピンセット等で除去するか、あるいは水の噴霧スプレーで対応します。

4月頃に、日は当っても雨の当たらない戸外に移動します。移動後も底面給水、誘引、白絹病処置を継続して行います。

 

その6 ポット植え替え

4分割ポットの幼苗を、5~7月頃に鉢上げします(交配後1年)。ここでは2.5号のポリポットに、通常のクレマチスの用土を使います。ポットには、交配情報を記入したラベルを立て、脱落しないようにしておきます。1個のポットのものを4個のポットに植え替えるため、特に転記ミスをしないように注意します。

プロミックなどを施肥し、幼苗に適した支柱を立ててください。

 

その7 ポット植え替え~開花

交配後1.5年の秋には3.5号に植え替えし、相応の支柱をたて、肥培しながら育成します。

この期間は変化もゆるやかで花も咲かず、単調で退屈な期間かも知れません。植木鉢に無味乾燥な交配番号等だけを記すのではなく、交配親の品種名などを記しておくと、作業の度に新花をイメージすることができ、作業の苦痛が軽減されものと思います。その他、重要な交配組合せには赤、黄色などのビニルテープ片を貼り付けて、作業に強弱を付けるのも良いのではないでしょうか。


毎年1回、0.5号ほどのサイズアップを目安に植え替えを行います。

一般的な交配品種の場合、交配後3年目の春には花をつけるものも出て来ます。交配から4年目の春になるとツボミがちらほらと見えてきます。そして5月になるとやっと開花が始まります。中には開花せず、翌年~翌翌年になる個体もあります。


交配親として、インテグリフォリア系、ビチセラ系、または原種系を使用した場合、開花が顕著に早くなる場合があります。極端な例として、原種クリスパと原種レティキュラータとの交配種をZIP播きした結果、交配からわずか2年後の春に開花しました。


また、一般的な交配種においても、交配からわずか2年で開花したとの報告が上がっており(当サイト)、好条件で育成されれば、まさしく画期的な結果が得られるのかも知れません。

 

その8 開花後

第2話その8と同じです。