第1話 クレマチスの交配方法

クレマチスの花は、中央にメシベ、その周りにオシベ、それらを取り囲むように花弁(厳密にはがく片)があります。オシベの先端にできる花粉を同じ花のメシベにつければ容易に種子ができると思われますが、多くの植物は自分の花粉を自分のメシベにつけて種子を作ることを望んでいません。そのようにして種子を作ったとしても、自分と同じ性質の子供ができるだけです。

即ち、他の花の花粉を優先して求めており、それがダメな場合は自分の花粉を甘んじて受け入れようとします。

 

私たちは、当該株の花粉を使用せず、人為的に別の株の花粉をメシベにつけて(=他家受粉)、受精し(=他家受精)、新たな性質(=形質)を持ったクレマチスの花を咲かせることを目標としています。

新たな形質としては、例えば「大輪の黄花種」、「澄んだ青色の花」などの花色の他に、「木立性」、「多花性」、「花形」、「耐暑性」、「強健性」など、多くの特徴が挙げられます。

 

新たな形質を設定し、それを実現するために交配親を定め、交配を行ないます。オシベとメシベを決定して交配するわけですから、あたかも絵の具を混ぜ合わせるように、簡単に望みの形質が得られるものと思われがちですが、一筋縄では行かないのが現実です。なぜなら、クレマチスの園芸品種はすでに幾多の交配が繰り返されて創出されたもので、現在見ている品種の形質が出てくるとは限らないためです。そのため、新たに得られる形質を予測することはとても困難なものです(原種系では、このようなことは少ないと言われています)。

 

その1 オシベの除去

2~3日後に開花しそうなツボミを選択し、そのツボミをやさしく押さえ、花弁をほぐします。花弁を1枚だけ残し、それ以外は元の部分から小型のハサミでカットします。残した1枚は交配の好機を検出するために使用するもので、半分程度に切っておきます(残した花弁はオシベを抱き込みやすいので、注意してください)。

 

通常、クレマチスが開花すると、当該株の花粉による自家受粉が自然と行われます。これを防ぐため、オシベをすべてハサミでカットします。オシベの除去後、風などで運ばれる花粉で偶発的な他家受粉が起こらないように、市販の茶こしバッグを2分割して作成したバッグ(以下「交配バッグ」)をかぶせ、木製ピンチ(06)で交配バッグの端を密封固定しておきます。この交配バッグは不織布で出来ているので通風性も良く、後述のZIP袋(17)よりも交配成績が良いようです。

交配バッグには交配親、交配年月日などの情報を記録しておくと、便利です。

その2 第1, 2, 3回目交配

切り残した花弁が開花位置に来たら交配バッグを取り外し、あらかじめ冷蔵保存しておいた花粉(乾燥剤存在下が好ましい)をコヨリなどでメシベの先端に2~3回付着させます。そして、交配バッグをかぶせておきます。これが第1回目の交配作業です。

花の形態により開花位置に来ない場合もあるので、そのような場合は3日程経過したら、交配を行います。

 

第1回目の交配後、約2日経過したら交配バッグを取り除き、伸長したオシベをハサミでカットして第2回目交配を行い、交配バッグをかぶせます。 

 

第2回目の交配後、約2日経過したら伸長したオシベをカットして第3回目交配を行い、交配バッグをかぶせます。

 

第3回目の交配時期になると、残した花弁やオシベが落下しますが、交配を継続します。第3回目交配後、約2週間は交配バッグをかぶせたままにしておきます。

 

交配作業は『晴天で花粉がよく放出する午前中』に実施するのが好ましいと言われています。しかし、必ずしも晴天が続くとは限りません。雨天でも交配出来るように、交配鉢は雨の直接当たらない場所に置くようにすると良いでしょう。

 

上記で、交配は3回実施するように述べましたが、より確実な交配を希望する場合は、さらに交配回数を増すとか、場合によっては毎日交配するのが良いと思われます。

その3 袋除去、交配成功ラベル取り付け

花弁とオシベが落下し、2週間程経過してメシベが太く成長すれば「交配成功」とみなして、交配成功ラベルを準備します。

成熟した種子を得るためには、約5ケ月という長い期間を要するので、交配成功

ラベルは丈夫で目立ちやすくし、そのラベルに交配情報を記入します。

 

ビニタイ(結束材)を使用して、交配成功ラベルを種子の成長するツルに巻き付け、さらに支柱などに確実に締結します。強い力をかけて締結すると、ツルを傷めますので注意してください。また、関係のないツルを不用意に締結したために、そのツルの先に自家交配して種が成長し、どちらが交配した種か判らなくなった経験もあります。

その4 種子の育成

一般的に、5~6月に交配した種子が成熟した種子となるのは9~10月で、この期間は夏の酷暑や台風来襲など、かなり過酷な時期でもあります。

 

そこで、種子を確実に成熟させるには、以下の点に留意する必要があります。

 

1. 水切れを起こさない

酷暑の時期は寒冷紗等で遮光し、灌水を励行します。

異常を感知した時には、即座にアクションを取ってください。

 

2. 害虫に注意する

種子を好んで食べる虫がいるので防虫剤を散布するのも一つの方法ですが、交配時に使用した交配バッグでカバーするのが確実でしょう。

 

3. ツル切れに注意する

植木鉢の転倒などによる「ツル切れ」を起こさないよう注意します。

 

4. 種子を飛散紛失しない

成熟した種を飛散せずに確保するために種子散乱防止袋を使用します。

その5 種子の採取と選別

種子が緑色から黄色に変化してきたら、種子が散乱しないように散乱防止袋をかぶせた状態で、種子の成熟を待ちます。時々袋を外して種子を観察し、触ればパラパラと落下する程度になったら、種子を紛失しないように慎重に取り込みます。

クレマチスの本の中には、「ある程度未熟な段階で取り込んでも良い」との表現も見受けられます。

 

1つの果球に付いている種子は、数10個のこともあれば、1~2個のこともあります。果球をバラし、毛を取り除き、種子の両胴で押さえて確認します。厚みがあり、硬いものが好ましいと思います。

小さな種子、柔軟な種子、腐敗した種子や虫食いの種子などは廃棄します(ビチセラ系では、中央部がかなり薄い種があります)。

 

なお、通常は交配がうまくゆかない組み合わせでも、たまたま交配が進み若干小さい種子が得られた場合や、たった1つしか種子ができなかった場合は、得てしてユニークな開花が期待されることが多いので、選別基準を甘くしたほうが良いとの話を聞いたことがあります。